久留米つつじの起源

久留米つつじの原種

久留米つつじの原種(野生種)は、鹿児島県霧島山の山麓に自生するヤマツツジ(北海道から宮崎県まで分布する個体とは異なり、開花期が早く、葉はサタツツジに似て、丸みが強く、光沢がある。サタツツジと合わせキリシマツツジと呼ばれることがある)と、山頂に自生するミヤマキリシマとの自然交雑種に加えて、大隅半島および薩摩半島に自生するサタツツジと考えられています。

ヤマツツジの花色は朱色、ミヤマキリシマの花色は紫色であるため、ヤマツツジとミヤマキリシマとの交雑種の花色は朱~赤紫~紫色と多彩です(下図)。サタツツジの花色は赤紫色が多いですが、朱色や紫色の個体もあります。これらの中から観賞性に優れた個体を選び、久留米つつじの交配親に用いたと考えられています。 ミヤマキリシマの花には、ヤマツツジ、サタツツジには無い色素(5-メチル化フラボノール)があり、この色素をもつ久留米つつじ品種は、ミヤマキリシマの血が入っているということになります。

久留米つつじの原種

さらに「田子の浦」など一部の品種では、モチツツジやキシツツジがもつ特徴がみられます。モチツツジは静岡・山梨~岡山県と四国、キシツツジは岡山・島根~山口県、四国、大分県の一部に分布します。

モチツツジやキシツツジを原種にもつ品種群にはリュウキュウ系、モチツツジ系、オオキリシマ系、オオヤマツツジ系があり、久留米つつじの新品種作出が始まる100年前に江戸で出版された園芸書に品種名が記載されています。したがって、モチツツジやキシツツジが久留米つつじの交配親に利用されたというよりも、モチツツジあるいはキシツツジを原種にもつ園芸品種が交配親に利用されたと考えられています。

久留米つつじ「田子の浦」

久留米つつじ「田子の浦」

【リュウキュウ系由来の特徴】
  • 花が大きい
  • 雄蕊数が多い
  • 花に微香がある
リュウキュウ系「白琉球」
リュウキュウ系「白琉球」

作出時代別の現存品種

江戸時代

曙、総角、吾妻鏡、安西高蒔絵、稲妻、今岡、浮む瀬、薄雲、薄縁り、小城踊唐子、乙女、郭公、旧青海、旧宮城野、桐壷、雲切、雲の上、位の紐、暮の雪、児遊、古金欄、小式部、胡蝶、小蝶の舞、小紫、御所桜、呉服、早乙女、桜小町、桜司、式部桜、東雲、石橋、裾濃の糸、夕陽、勢多の入日、高砂、高蒔絵、誰ヶ袖、田子の浦、玉の台、玉芙蓉、玉縁り、千代の曙、通天、蔦紅葉、照君、鳴海重、練絹、初音、花筏、東山、美人酔、筆捨山、松の雪、窓の月、簾の内、都絞り、桃園、大和錦、雪の駒、夜桜、吉野山、万代、乱曲、若楓(計66品種)

明治時代

相生、相の島、朝霞、旭鶴、旭の空、旭の湊、昌三桜、吾妻潟、艶紫、綾錦、綾の冠、綾姫、綾服絞、新玉、泉川、一天、厳島、今猩々、以呂波山、岩戸鏡、浮橋、移り香、絵の姿、蝦夷錦、老の目覚、扇重、王昭君、大内獅子、大内山、大空、小城児遊、長楽、思寝、思の空、篝火、鹿毛織、重篝火、鹿島、霞ヶ関、桂川、桂の花、唐錦、紀念、君ヶ代、京鹿の子、麒麟、国の誉、雲井鶴、車返し、呉羽絞、虞美人、元禄、児重、九重、小壷、此の花、小町の舞、桜鏡、桜重、桜狩、桜川、左近、小波、沢の月、三光錦、紫雲台、紫宸殿、静の舞、酒中花、蜀光錦、不知火、白雪、白露、新台、新尾上、新青海、新天地、新鴇の羽重、新宮城野、殿、水晶簾、酔楊妃、末摘花、菅の糸、摺墨、盛華、玉垣、玉桜、珠田の縁、玉手箱、玉紅、丹頂、大勲位、千代田桜、千代鶴、司紅、照姫、天地開、天女の舞、虎の洞、常夏、名社の関、難波潟、鳴海絞、錦重、錦孔雀、日光、寝屋の扇、野田の里、白黄錦、羽衣、初被、花遊、花形見、花車、花の帝、花吹雪、春の栞、春の曙、常陸山、緋の衣、緋の司、日の出の鷹、緋の袴、百花撰、不可思議、福包、福笑、富士の旭、藤の思、富士霞、筆塚、弁財天、紅麒麟、紅筆、鳳凰、発心桜、舞扇、舞孔雀、舞姫、麻耶夫人、見返桜、帝錦、三櫛絞、水の山吹、御室山、御旗錦、御代司、御代の春、御代の誉、向島、武蔵野、紫籠、群千鳥、双絵久保、八雲、八千代、大和桜、夕暮、雪の面、養老、吉見ヶ岳、粧、羅城門、利休好、流星、竜門、若蛭子、和歌の浦、若葉(計170品種)

『霧島(きりしま)躑躅(つつじ)銘鑑』明治42年1月付(久留米市世界つつじセンター所蔵)
『霧島(きりしま)躑躅(つつじ)銘鑑』明治42年1月付
(久留米市世界つつじセンター所蔵)

大正時代

旭竜、綾衣、今式部、薄化粧、梅王、大沢、神楽、桂返し、桂姫、金太陽、国常、小町、新常夏、新御代の誉、宝の玉、田子の不二、玉の輿、大麒麟、稚児の舞、蝶の羽重、月見の宴、常春、名島の岡、錦司、日光山、初梅、日の出の雲、福彦、二重常夏、筆司、筆止、都獅子、大和の春(33品種)

『躑躅(つつじ)銘鑑』大正6年6月付(久留米市世界つつじセンター所蔵)
『躑躅(つつじ)銘鑑』大正6年6月付
(久留米市世界つつじセンター所蔵)

大正~昭和時代

旭の錦、綾羽、今様錦、大御代、大胡蝶、尾上、重夕陽、鎌倉、通小町、歓喜、紀元、錦鳳、国光、久留米小町、高良の春、御成婚、里の光、三晃、紫雲の滝、新吾妻潟、新呉服、新通天、聖花、青林、大典、妙音、稚児遊、稚児重、千年の春、照国、天界、天與、白牡丹、美光の玉、美人姿、春の里、日の出の海、緋竜の舞、富士の裾野、筆中、文鳥、紅牡丹、舞衣、満山、都の花、都の誉、都美人、村雨、陽明錦、竜砂川(計50品種)

昭和時代

今紫、大八洲、軍旗、時雨錦、時雨の滝、祝典、昭和の誉、緋の衣、姫鏡(計9品種)

これまで記録されているクルメツツジの作出時期別割合

これまで記録されているクルメツツジの作出時期別割合

参考資料

  • 品種番付(明治5年)
  • 日本園芸会雑誌「久留米産霧嶋躑躅ノ種類及ヒ栽培法」119号(明治35年)
  • 赤司廣楽園霧島躑躅花銘鑑(明治35年)
  • 案納開楽園霧嶋躑躅銘鑑(明治35、42年)
  • 霧嶋躑躅栽培全書(明治39年)
  • 日本園芸雑誌「日本産躑躅の種類に就て」4号(明治42年)
  • 久留米錦光会久留米躑躅新花第二回報告(明治45)
  • 赤司廣楽園営業案内(大正3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,14年,昭和12年)
  • 案納開楽園営業案内(大正3,5,6,7,8,9,10,13,15年)
  • 桑野養成園躑躅銘鑑(大正6年)
  • 久留米躑躅誌 第5版(昭和9年)
  • 桑野養成園営業案内(昭和14年)
  • 久留米つつじ生産組合創立20周年記念誌(昭和58年)